モラハラを調べていてみつけたあるブログに投稿されていた夕鶴~Another story~
モラルハラスメント・ブログmachimachi_2005さんより転載
夕鶴~Another story~
昔昔のある日のこと、若者が歩いていると一羽の鶴に出会いました。
見ると鶴はかわいそうに、羽から血を流して倒れています。
若者は思いました。
「おお、こりゃいいカモだ。こいつを治してやると将来メリットがあるに違いない。」
そして若者は手厚く鶴を看病してやり、数日後鶴は嬉しそうに空に帰って行きました。
空をクルクルまわりながら、お礼を言っているかのようでした。
若者は村に行き、「俺はこんなに偉いやつだ、こんなことをしてやった」と
触れ回りました。
またある冬の寒い日、若者が家にいると、きれいな若い娘が尋ねて来ました。
聞くと、今夜泊まる宿がなくて困っているとのこと。
若者は思いました。
「おお、若くてきれいな子だ。こいつを泊めてやればいいことがあるに違いない。」
そんな汚い心は隠して若者は
「そうですか、それはお困りでしょう、どうぞ泊まって行って下さい。」と
快く娘を迎え入れました。
そして村に行き、「俺はこんなに偉いやつだ、こんなことをしてやった」と
いつものように触れ回りました。
娘は毎日少ない食材で上手に料理を作り、掃除をして、若者の世話を焼きました。
そして娘は雪が深く、すぐには帰れないので、機を織りたいと言い出しました。
「どうぞこの部屋を使って下さい」と自分で働くのがキライな若者は、快く言いました。
そして「いい娘を拾ったもんだ、あの時の判断をした俺はすばらしい。さすが俺。」
とほくそ笑みました。
しばらくして娘が部屋から出てきました。見ると美しい布が仕上がっています。
「どうぞ、これを売ってお金にしてください。」
「ありがとう、では早速売りに行って来ます。」
金の計算の働く若者は、とっとと村に行き、いい値段で布を売ってきました。
もちろん、「俺が世話を焼いてやったら娘がこんなことをしてくれた」と
触れ回って帰ってきました。
「お前らも、困っている人が居れば助けてやった方がいいぞ」と
説教すらしてくる始末でした。
帰ってきて若者は娘に言いました。
「もっと織ってくれ、どんどん織ってくれ。」
娘はおかしいなと思いながらも、
昼夜を忘れて機を織り続けました。
若者はどんどん村へ行き、それを売っては自慢の種にし
どんどん財を成していきました。
若者の布は殿様の目に止まり、殿様がどんどん布を織って欲しいと
言ってきたのでした。若者は喜びに飛び上がりました。
「すべては俺がすごいからこうなったのだ。帰ってもっと娘に頑張らせよう。」
若者が帰ってきたとき、まだ次の布ができていないのを見て
若者は大きなため息をつきました。
「はあ~~っ・・・」
最初は優しかった若者でしたが、日に日に娘に笑顔を見せることはなくなり、
逆にあからさまに嫌悪感たっぷりの態度で娘に接するようになっていました。
若者は、常に威圧的に接し緊張感を漂わせることで、
自分の存在や言動の影響力を高めていたのです。
若者は冷たく、カミソリのような目をして、低い声で言いました。
「織っておけと言ったはずだが」
見ると娘は真っ青な顔をして痩せ衰えていました。
今にも倒れそうになっていました。
誰から見ても娘が衰弱しているのはわかります。
なのに、一緒に暮らしている若者は、
全く知らないフリをしていました。
頑張ればいつか彼も、わかってくれる。
今は疲れて、イライラしているだけに違いない。
温かい気持ちで頑張っていれば、いつか必ず心が通じる時がくる。
娘はそう信じていたので、小さな声で言いました。
「もう一枚だけですよ。それから、決して部屋だけは覗かないで下さいね。」
若者は
「わかった、部屋は覗かないから、一枚と言わずにどんどん織ってくれよ!!」
娘が「いいえ、一枚以上はもう・・・」と言いかけるやいなや若者は
「どういうつもりや!俺に恥をかかせるつもりか!殿様からの注文なんだぞ!」
「ここに置いてやってるのは誰や?誰のお陰でメシが食えてると思ってるんだ?」
「泣いてもごまかせないぞ!ちゃんと食った分は払ってもらうからな!」
バシッ!!
言うなり、若者が思い切り拳で古い木の戸を思い切り叩いたので、
その音に娘は縮み上がりました。
戸を叩いただけなのに、自分が叩かれているような錯覚に陥りました。
次はお前だぞと、言われたような気がしました。
娘は泣きながら機を織りました。
あんなにいい人だったのに、私が悪かったんだろうか。
私がもっと頑張れば、あの人はあんなふうに豹変しなかったのだろうか。
もう少し我慢すれば、もっと機を織れば、いつか戻ってくれるだろうか。
羽根を抜き抜き布を織り上げるうち、娘はふと気付きました。
自分の羽根がもう、飛べないほどに少なくなっていることに。
もう我慢ができない状況まで、自分が追い詰められていることに。
部屋の前で若者は強く言いすぎたことを少しだけ後悔していました。
「しまった、強く言いすぎて生産効率が落ちたらどうしよう。」
「もっとうまく操縦するべきだったかな。あいつには頑張ってもらわないと。」
「まああとでまた機嫌とっておけば大丈夫だろう。」
「どうせ他に行くところがないのだし、俺を気に入っているようだしな。」
娘は涙をボロボロ流して、悲しくて機を織る手を止めました。
「私はあなたに救って頂いた身。」
「傷ついた私を助けてくれたのはあなただった。」
「その恩があればこそ、ここまで頑張ってこれたし、あなたにも恩を返せたと思う。」
「だけど、このままここに居ては、私は飛べない鶴になってしまう。」
「鶴は飛べなくなったら、生きてはいけない。」
「だからあなた、ごめんなさい。私は飛び立ちます。」
最後まで添い遂げられなかったこと、
どんなに頑張っても優しい言葉をかけてもらえなかったこと
傷ついたとき助けてくれたのに、その人を裏切ること
だけどそうしなければ自分がダメになってしまうこと・・・
今まで味わったことのないような巨大な罪悪感が襲ってきました。
同時に、今飛び立たなければ死んでしまうと、
今逃げなければ自分の心身の危機が訪れると、
本能的な焦燥感が娘を包みました。
あれこれ考えた末、娘は家を出ることにしました。
そこにちょうど、若者が入ってきました。
娘は「見てしまったのですね。私はあの時助けていただいた鶴です。
あなたに恩返しがしたくてここに来ましたが、
見られてしまっては仕方がありません。
命を助けてくださってありがとう、さようなら。」
と鶴は若者の横をすり抜けて飛び立ちました。
鶴は傷ついた羽根をたどたどしくも一生懸命、
羽ばたかせながら思いました。
「この羽根を残しておいてよかった。」
「飛べる羽根が残っていなかったら私は死んでしまっていた。」
「あの人は酷いことを言ったけれど、私も悪かったのかもしれないし。」
「これでよかったのだ。すべて終わったのだ。」
そう自分で自分に言い聞かせながらも、
鶴は良心の呵責に苛まれ、前が見えないほどに涙を流しながら飛んでいました。
そもそも恩返しからはじまった、若者との間柄でした。
恩が返せないまま、恩をあだで返すような形で、
若者の元を去ることを思い、
今まで冷たい態度に出られたことは棚に上げて、
なんとも申し訳ない気持ちでいっぱいになっていました。
あの人は私がいなくなったら一体どうなるんだろう。
でも、振り返ってはいけない、戻ってはいけないことだけはわかっていました。
力を振り絞って、出来るだけ遠くに飛ぼうと懸命に羽ばたいていました。
この先には、自由がある。
この先には、希望がある。
この先には、自分らしく生きられる世界がある。
若者は、「鶴よ~!!!」と鶴のあとを追いかけました。
追いかけているうちに涙が出てきました。
悔しいので泣き叫びながら走って追いかけました。
「鶴よ~!お前がいなくなったら俺はどうなるんだ~!」
「鶴よ~!殿様には何と言えばいいんだ~!」
「鶴よ~!俺は明日から何を食えばいいんだ~!」
自分が必死で叫んでいるのを知りつつも振り返らずに羽ばたく鶴を見て、
若者はカッとなり、その瞬間から何も考えられなくなりました。
そしてあろうことか狩猟用の銃を取り出し、
よろよろと飛ぶ鶴めがけて迷うことなくその引き金を引いたのでした。
バキューン・・・・
静かな山に、銃声が響き渡りました。
ひらひらと舞い落ちる木の葉のように、
撃たれた鶴は、漆黒の夜の空から舞い落ちました。
真っ白な雪の上に、ふんわりと、真っ白な鶴が落ちたのに、
雪は見る間に赤く赤く染まっていきました。
若者は、さくっさくっと大股で雪の上を歩き、
撃ち落されて瀕死の鶴に近づき、
抱き上げることもなく、凍った表情と凍った眼差しで、
鶴を見下ろしました。
「お前が悪いんだ。そうだろう?」
「お前が恩をアダで返そうとするからこういうことになるんだ。」
「俺は悪くない。俺が受けた裏切りに対し、当然の報いをしたまでだ!わかったか!」
「この裏切り者!バカ鶴!死ね!」
鶴は、自分の甘さに初めて、深く深く後悔しました。
人間ってやつはもっと、良いものだと思っていた自分。
人間の心ってあったかいと、信じていた自分。
その自分が、甘かったのだ。
心の底まで凍りきった、自分のことしか考えていない、
人間の血の通っていないような人間が実在するなど、
想像もできなかった、お人好しな自分を恨みました。
自分の体の自由を少しずつ失いながら、
もう、取り返しがつかないということをわかっていながらも、
鶴は深く深く後悔していました。
もっと早く、家を出るべきだった。
もっと早く、気が付くべきだった。
もっと早く、飛び立っていたなら、元気なときの自分なら、
普通に力強く飛べたなら、この人に追い付かれることもなかったのに。
でももうすべて、遅すぎたのだと、
誰よりも鶴が知っていました。
「私、こんなとこで、こんなふうに、死ぬんだ・・・」
「私、何のために生まれてきたのだろう・・・」
「私、もっと生きたい・・・」
どくどくと流れ出る自分の血液を感じながら、
遠ざかる意識の中で、
せめて、最後に、この人と出会えたことを、あの日々を、
感謝できればいいのにとふと思いました。
そして、その考えすら、
自分が果てしなくお人好しだからなのだと鶴は気付きました。
くくくっと最後に力なく、鶴は笑いました。
そして次の瞬間、鶴にとって何もかもが、
「無」になりました。
かわいそうな鶴は無念のまま、絶命しました。
若者は、しばらくじっと同じ体勢で鶴を見下ろしていましたが、
痙攣し、今まさに命尽き果てた鶴の頭を、
足で揺すりました。
手で触ると汚れると咄嗟に思ったからです。
足先で、生存反応がないことを確認すると、
「やれやれ」と深いため息をつき、
ひょいっと足を掴んで、引き摺って家まで運びました。
若者の家に住んでいた、美しい娘が亡くなったことは、
あっと言う間に村中に知れ渡りました。
翌日若者の家には、
多くの村人が弔問に訪れました。
若者は不釣合いなほど立派な、盛大な葬式を催しました。
冷たくなった、立派な棺の中の鶴を撫でては、
大きな声で泣きじゃくりました。
「かわいそうに、流れ弾に撃たれてしまったのです・・・」
「愛していたから、大切にしてきたのに・・・」
なんと心優しい若者かと、心打たれる村の人がほとんどでした。
そして、弔問客から多額の香典と、同情を一身に受け、
式を完璧に取り仕切った若者は、その夜一人きりになり
鶴に向かってほくそ笑むのでした。
「ま、元は取れたから、いいか。」
「いつまでも執着しててもな。次、次と。」
・・・あなたが身を削り続けている努力は、
意味のない努力かも知れない、と思ったことがありますか?
あなたは悪くないのに、悪いと言われ続け
人の心を持たぬ、
人間の形をした人間ではないその相手に虐げられ傷つけられて、
いつしか、飛べなくなってしまうかも知れない。
飛べなくなるその前に、
目の前の相手が本当に人間の心を持つ者なのかどうか、
じっくり考えてみて下さい。
この鶴の話のように、本当に手遅れになることが
起こり得るのですから・・・
大事なのは、羽があるうちに、飛び立つことです。
自分を信じて、幸せに向かって、飛び立つことです。
言葉もない
これを読んだとき、恐ろしさのあまり背筋が凍る。
本当にこの通り。
鶴の心情がよくわかる。
こちらが何をしても、足りない、足りない。
感謝の気持ちが足りない足りない、まだ足りない、どんどん要求され。
私が悪いのかな?まだ足りなかったのかな?どうしたら機嫌よくなってくれるのかな?そう考えて暮らしていた。
私は撃たれる前に逃げ出せて本当に良かった。
逃げられる力があるうちに逃げられて本当に良かった。
もし今モラハラに苦しんでる人がいたなら、今すぐ逃げて、と伝えたい。
あなたは悪くない。